朝、総司は微かな芳香で目を覚ました。
香の方へ首をやると、清三郎が花を抱えている。
「おや、神谷さん、その花どうしたんです?」
「あ、沖田先生! 今起きたら枕元に置いてあったんです」
「へぇ、綺麗ですね」
「何て花なんでしょうね」
その頃には、一番隊の隊士たちが少しづつ起き出した。
そして、花を抱えて嬉しそうな神谷と総司を見た。
なんともほのぼのしていて、みな体を起こせずに寝た振りを決め込んでいく。
「きっとそれ、神谷さんへの贈り物ですよ」
「え、そうでしょうか?」
「だってその花、神谷さんにとってもよく似合いますもん」
清三郎は真っ赤になって花に顔を埋めた。
(神谷〜可愛いぜ〜っ)
(つーか沖田先生、贈り物ですよってそんな呑気に……)
(誰だよ、神谷に抜け駆けして贈り物した野郎は!)
そんな隊士たちの心にこの野暮天カップルが気づくはずもなく。
「わ、私! 花瓶、探してきます」
「朝稽古までには戻ってくるんですよ」
「はい〜〜」
パタパタ、と清三郎の足音が遠ざかったのを確認すると、徐に総司が言った。
「しかし、夜中とは言え枕元に花を置かれて気がつかないなんて、鈍いですよねぇ」
(……え?)
「侵入者が、花を置いていっただけでよかった。夜襲だったら神谷さん死んでましたよね」
(そ、そりゃそうだ!)
一番隊は近藤局長の親衛隊ともいうべき隊である。
そして、同時に彼らは神谷清三郎親衛隊でもある。
隊士たちはいきり立った。
「うおぉ! 侵入者許すべからず!」
「沖田先生、稽古をつけてください!!」
「夜間の屯所内の警備を強化せねばっ!」
そして総司をはじめ、皆の想いは一つである。
『二度と抜けがけは許さないっ』

 その日から、一番隊隊士が悪鬼の如く猛烈な稽古をはじめたのにつられ、他の隊士たちも稽古に熱が入り、怪我人が続出し、清三郎の首を傾げさせたという。