河辺の家―序章―

 総司は近頃、河辺に小さな家を持った。
そう、ここに、結婚したばかりの愛妻・セイと住まうことになったのだ。

 「あぁ、気持ち良いですねぇ〜」
縁側に立った総司は思わず声に出していた。
四季折々の花、ゆるやかな河音。
目にも、耳にも、心地よい。
「わぁ、素敵ですね」
お茶を煎れてきたセイも、歓声を上げる。
「あなたも気に入ってくれた様で、嬉しいですよ。土方さんにも言っておかなくちゃ」
「え? 鬼副長がどうかしたんですか?」
総司が、くふふ、と笑って、意外な事を言った。
「この家を最初に見つけたの、土方さんなんですよ」
「そうなんですか? あとでお礼を言いに行かなくちゃ」
「じゃ、一緒に屯所へ行きますか」
「はい! でも、私は沖田先生のお側に居られるなら、屯所のままでよかったのに……」
総司はぶんぶん首を振った。
「あなたが女子だと皆に知られた以上、とても心配であそこには置いておけません」
「……沖田先生」
「男であった時でさえ、あんなに狙われたんですから」
じっと総司に見つめられて、セイは真っ赤になって俯いた。

 「ところで、おセイさん?」
「は、はいっ!」
お茶と、総司大好物の茶菓子で寛いでいたところへ、いきなり名前を呼ばれてセイは慌てた。
「まだ、慣れないんですか? おセイさん」
「……沖田先生の意地悪〜」
ぷくっ、と拗ねるセイをそっと抱き寄せて総司は囁いた。
「そろそろ、その『沖田先生』っていうの、止めてくださいよ」
「でっ、でも!」
「わかりましたか? ……セイ」
ちょん、と鼻の先をつつかれて、セイの顔が淡く朱色に染まった。
「可愛いなぁ」
くすくす笑いながら、総司はセイをぎゅっと抱きしめた。
「沖田先生……好きです、大好きです」
「私も大好きですよ。もう、あなたが愛しくて堪らないんですから」

 夕陽が室内に差しこんだ。
そっと身を寄せ合う二つの影は、しばらく動く事はなかった。