河辺の家―山南はみた― ここは、川辺にある総司とセイの新居。 居間には、今日もお客さんが来ている。 一番隊にいた神谷清三郎が実は女子だと発覚し、総司が娶ったのが、今年の春。 その祝いに、新選組の幹部達が金を出し合って、この小さな家を買ってくれたのだ。 そこへは非番の隊士たちが、頻繁に休みに来る、一種の休憩所となっている。 そして、今日は山南総長が、遊びに来ているのだ。 「山南さん、いらっしゃ〜い」 にこにこ、と出迎えた総司は幸せそうで、山南も思わず笑みが零れる。 「いい家だね」 「ええ、住み心地良いですよ」 居間に通された山南は、きょろきょろと見まわした。 「総司、神谷くん……いや、おセイさんの姿が見えない様だが」 「ええ、ちょっと出掛けてもらってるんです」 お茶、煎れて来ますね、と台所へ向かう総司はやっぱりにこにこしている。 山南は首を捻った。 綺麗に片付いてはいるのだが、どうも、男所帯のような雰囲気がするのだ。 (女の住んでいる気配がまるでないのはどうしたことか?) 「お待たせしました」 「あ、ああ」 総司の声に我に返った山南は、恐る恐る尋ねてみた。 「あの、総司。おセイさんと、ちゃんと暮らしているんだろうね?」 「え?」 「そ、その……」 流石の山南も言葉に詰まってしまった。 と、そこへ、玄関から聞きなれた声が飛びこんできた。 「総司さま! 只今帰りました!」 すっく、と立ち上がった総司が小走りに玄関へ走り出ていく。 「お帰りなさい、おセイさんっ! お仕事どうでした?」 「首尾良くいきました。総司さまこそ、どうでした?」 「何も困りませんでしたよ。今日の夕餉はおセイさんの好物作りますね」 山南はうーん、と唸った。 ここだけ会話を聞くと、男女の役割が逆転しているようだ。 「総司さま、お客様ですか?」 「はい! 山南さんです!」 居間へやってきたセイをみた、山南は思わずお茶を吹いてしまった。 「か、か、神谷くん! その格好はどうしたんだい?」 月代こそないものの、羽織袴の男装なのだ。腰に二本差している所も、変わらない。 (こ、これではまるで、男が二人住んでいるようなものではないか!) 「お久しぶりです、山南先生!」 「おセイさんてば、女装が落ちつかないっていうんです」 くすん、と総司が寂しそうに言う。 「ついでに、家に収まってるのも落ちつかないって言うから、監察やってもらってます」 「か、監察!? 危険……いや、家のことは……」 「分担してますよ?」 流石にセイは赤くなっているけれど、さらりと総司が言う。 「あ、あの、もちろん、妻としての役目もきちんと果たしております」 微かに頬を染めながら言うセイを見ながら、山南は開いた口がふさがらなかった。 この何とも言えない気持ちを何と伝えれば良いのだろう。 彼らが普通の夫婦になるとは思っていなかったが……。 「総司……いいのか、これで……」 「良いんです、何をしてもおセイさんは可愛いですから。あ、お茶が冷めましたね」 「総司さま、私が煎れてきます」 慌てて立ちあがるセイを制して、総司はにっこり微笑んだ。 「お仕事で疲れてるんですから、ゆっくりしてくださいね」 「……はい」 山南はるんるん、と去っていく総司の背中と、にこにこと笑っているセイを順番に見た。 (二人が幸せそうにしてるんだ、いいんだろう、これで。うん、きっといいんだ……) ふうっ、と山南は大きな溜め息を心の中で吐いた。 |