河辺の家―ある朝―

 総司よりはやく目覚めたセイは総司の腕を抜け出した。
 そしてそろり、そろり、と気だるい体を動かして、布団から這い出た。
「ぅうん……」
 総司の声に、びくっとして、四つん這いのまま、ゆっくり総司を振りかえってみた。
(大丈夫、まだ寝てる……急げーッ)
 
 布団から飛び出したセイは、素早かった。
 脅威の早さで身支度を整え、朝餉の支度にとりかかる。
(まさか、素早く着替える術が家庭を持っても役に立つとは……)
 総司が起きる前に、身支度を整えて、朝餉を整えねば!
 セイは必死だった。
(前回と同じ過ちを繰り返してなるものか!)
 
 前回の非番の日。
 手っ取り早く言うと、セイは昼まで総司に放してもらえなかった。
 もっと正しく言うと、一晩中総司に良い様にされ意識を飛ばし、朝目覚めて再び良い様にされ意識を飛ばし、気がついたら昼近くで、総司が食事を整えていた。
 その時、こんなこと二度とやるまい、と誓ったのだ。

 「うん、今日はよし!」
 セイが思わず独り言を言ったとき。
「どこが、いいんですか?」
 いつのまに背後にきたのか、ちょっぴり拗ねたような総司の声。
「あなたは、ここがいいんですよね」
「きゃあ」
 背後から手がにゅっ、っと伸びてきて、セイの片方の胸が、がしっと掴まれた。
「や、もうっ!」
 慌てて手を振り払おうともがいたが、かえって総司の腕の中に体を預ける格好になってしまった。
「気にせず、お料理続けてください」
 にっこり笑って言われ、セイの闘争心に火がついた。
「ええ! 作りますとも!」
 セイは必死に総司の手から意識を逸らして、野菜を刻む。
(おや、頑張りますね……)
 セイがかまどへ向かえば総司も向かう。魚を焼けば、総司もついてくる。
(負けてなるものか!)
 更に性質の悪いことに何時の間にか総司の手は二本になり、セイが料理をするのにあわせて巧みに刺激する。
「そ、総司さま……はなして……」
「セイ、お魚が焦げてますよ! ひっくり返してください」
「はっ……はいっ……っ……」
「うふふ、美味しそうですね、お味噌汁。頑張ってください」
(総司さまのいじわる……)
 セイの呼吸が次第に荒くなる。
 頃合いを見計らって、止め、とばかりに、総司はセイの着物の袷から片手を差し入れ、もう片手は、着物の裾を割った。 
 くちゅり、と音がして、セイは益々頬を赤くした。
「やだっ……」 
「今更、嫌だなんて、嘘をいっちゃいけませんよ。ほら、ここは私が欲しいって言ってますよ」
「そんなことっ……あんっ!」
「いけませんね、嘘は……」
 くすくす、と笑いながらセイの敏感な突起を指先で揉み解していく。
 セイは総司の指をするり、と飲み込んで尚、料理をしようと試みる。 
 総司は尚もからかいたくなった。
「セイ、まだですか? お腹がすきましたよぅ」
「も、もうすぐっ……」
 もちろん、セイを絶頂へ導くのも忘れない。

 結局、総司がすっかり冷えた朝餉を食べた時、セイは台所でぐったりとしていた。
 胸元は肌蹴て、裾も髪も乱れている。
「総司さま、いかがですか?」
「私はお腹一杯です!」
「……よかったですね」
「ええ。たまには違う場所で食べるのもいいですねぇ」
「え? ……何の話しです?」
「勿論、セイを頂く場所ですよ?」
 セイは頭に血が上るのを感じた。
「総司さま、私は料理のことを聞いてるんです!」
 一瞬きょとん、とした総司だが、けらけら、と笑い出した。
「美味しいにきまってますよ! 私好みの味付けしてくれてるんですから」
(あ、気がついてたんだ……嬉しい)
 一瞬、セイは総司を見なおしかけた。
 が。
「セイもどんどん、私好みに味付けされてますよね。で、次はどこでしましょう?」
「味付けって……え? つ、つぎ?」
「ええ、今日は非番ですからね。色んな所でためすんです!」
 セイはさーっと、蒼くなった。そんなセイにお構いなしの総司は軽々とセイを抱き上げる。
「や、嫌です! 下ろしてください!」
「そんな格好で暴れると……まぁいいんですけど、着物が全部脱げちゃいます!すぐ脱がせますけど、着ててください」
「総司さまのばかぁ!」
 セイの絶叫が、家に響き渡った。
 
 川面では、のんびりと舟が行き交い、庭の小舟の傍でぴちゃん、と魚が跳ねた。