ちび平助の日常・第4話

 いつも元気な平助だが、今日は珍しくしょんぼりしている。
 その隣に、歳三もいるが、こちらはいつにも増してすましている。
 彼らのまわりには隊士がずらっと並び、彼らは神妙な顔をしている。
「平助と土方さんが叱られてんだ、へらへらするなよ、左之」
「ぱっつぁん、心配無用! うっかりすると俺らも叱られるからな」
「一体誰だ、清三郎と沖田さんを子守係にしたのは……」

 「さぁ、藤堂先生!」
「やっ」
「だめです!」
 平助の鼻先に、にんじんがぐぐっ、と突きつけられた。

 平助はぷいっと横を向く。
「にんじん、きらいっ!」
 セイの額に、青筋がういた。
「好き嫌いはいけませんって毎回言ってるでしょう!」
「神谷さん、まぁまぁ……」
「だめです。今許すと、好き嫌いする子になっちゃいます!」
 宥める総司を無視し、セイがド迫力で迫るが、平助は負けていない。
「とし、おやさいのこした! へぇちゅけ、みたもん!」
 セイの目がらーん、と輝き、歳三は首を竦めた。
「……沖田先生、副長に野菜を食べさせてください」
「可哀想ですよう」
「子どもを甘やかしちゃだめですっていつも言ってるでしょう!」
 平助の好奇心一杯の大きな目と、セイの鋭い目が、総司と歳三を見る。
 思わず、総司と歳三は顔を見合わせた。
 行く末を見守っている隊士たちは、ごくっと唾を飲みこんだ。

「まるで、夫婦のような会話……」
 眺めていた山南が呟いた。
「ついでに神谷は鬼の母、だな」
 セイに見つからない様、小さな声で新八がいう。
「じゃあ、総司は子どもに甘い父ってところか」
 左之助が言う。
「歳さんが長男で、平助が次男だのう」
 源さんが小さい声で言った。
 
 一方、そんな会話が交わされているとは知らない平助たち。
「……ささ、歳三さん、食べましょうね」
 総司が冷や汗をかきながら、歳三の口元に野菜を持っていく。
「断る」
 真剣な眼差しで、歳三は総司を見た。
(美少年の真っ直ぐな視線、というものはどきどきしますね……)
 総司がオタオタするのを見た歳三の頬が軽く持ちあがった。
「苦手な物を無理強いするとは、大人気ない奴らだ」
 ぴし、と総司とセイが固まった。
(ああ、火に油を注ぐ様なセリフを……)
(この餓鬼っ……)
 いよいよ気を良くした歳三の舌は滑らかだ。
「見ろ、他の大人も適当に残している。大人はいいのに、子どもはいけない、これはどういうことだ。説明してもらおうか」
 だんっ、とセイは畳を叩いた。
 すうぅ、と息を吸って、見事な大声を上げた。
「全員、残すなぁ! 子どもの手前、示しがつかねぇんだよ!」
 隊士たちは、一瞬呆気に取られたが、慌てて残していたものを口に放りこみはじめた。
「藤堂先生、副長、みなさん食べましたよ? さぁ、どうします!」
 心を決めたらしく、平助が小さく口を開けた。
 総司がすかさず、にんじんを平助の口元に持っていく。
「んぐっ……」
「あ、食べた! えらい〜!」
 にんじん一欠けらをなんとか食べた平助を、セイは思いっきり抱きしめた。
 それを見ていた歳三も、総司に渡されたにんじんを、ぱくん、と食べた。
「副長も! えら〜い! よく食べました!」
 こちらも、セイが抱きしめて頭を撫でてやる。
「明日から、ちゃんと食べる。約束する」
 歳三がぼそっと呟き、セイは再びぎゅっと歳三を抱きしめた。

 翌日の朝餉の時。
 「いいですか、みなさん。藤堂さんと土方さんが好き嫌いなく食べるようになるまで、絶対に残してはいけません」
 大真面目な顔で総司が宣言し、隊士たちは深い溜め息をついた。