ちび平助の日常・第5話

 「あうぅ……」
 平助は、一人で途方に呉れていた。
 昼寝から目覚めたら、まわりに誰もいなかったのだ。
 笑顔で「起きましたか?」といって抱っこしてくれる、『そーじ』や、怒ったらこわいけどぎゅーってしてくれる、『しぇい』や、お兄ちゃんのような、『とし』が、居るのが当たり前なのに、今日は誰もいない。
(捜しに行きましゅ……)

 「しゃの?」
 平助は十番隊の部屋へと行ってみた。
 ところが、『しゃの』どころか、誰もいない。
 小首を傾げて、今度は、二番隊の部屋へ向かった。
「ぱーあん……?」
 やっぱりここにも、誰もいない。
 平助は、溜め息を一つついた。今度目指すは、三番隊の部屋。
「しゃいと?」
 いない。

 平助は、よたよた、と走り出した。
 頬っぺたに擦り傷があるのは、さっき縁側から転がり落ちた所為だ。
 道場、台所と回って、ここまできたが、誰ともあわない。
 次第に、平助の胸に、不安が広がっていく。
「いとー? みき?」
 この部屋にも、誰もいない。
「ちゅけ?」
 平助はとうとう力尽きて、空っぽの山南の部屋の前でぺたん、と座りこんでしまった。

 この屯所、幼児には、相当広く感じるのだ。
 その広い屯所、誰もいない。
 平助の目に涙がこんもり盛り上がった。
(へぇちゅけ、いいこになりましゅ……。かえってきて……)
 平助は、唇をきゅっとかんで俯き、涙を堪えた。

 いつのまにか、眠ってしまったらしく、次に平助が目を覚ました時は、一番隊のいつもの場所に寝かされていた。
「あ、藤堂さん起きましたよ!」
「そーじ!」
 総司の声を聞きつけて、どやどや、と人がやってきた。その多さに平助はびっくりした。
「藤堂先生、頬っぺた痛くないですか?」
 心配そうに、清三郎が頬っぺたを撫でる。
「平助、留守にしてごめんなー」
「俺達を探したんだよな?」
 左之助と新八が申し訳なさそうな顔で、平助を代わる代わる抱っこする。
「土方くんが、部屋の前で寝てしまった平助を運んでくれたんだよ」
 山南の後ろに隠れていた土方が、近藤に押されて、照れくさそうに、出てきた。
「俺は、平助の兄だからな……」
「とし! にーたんなの!」
 伊東・三木兄弟や源さん、斎藤も口々に平助に声をかけ、撫でたり抱いたり、大騒ぎ。
(みんな、いりゅ……)
平助は、嬉しくなった。
「うふふ〜! あのね、みんなしゅきなのぉ!」
 全開の笑顔で平助が言い、この後、平助争奪戦が一層加熱していくのだった。