近藤屋敷・1 東京の某所にある純和風の大きな大きな家。 さる旗本屋敷の一部らしく、母屋に離れ、倉もある。中庭や前庭もあれば、厩も井戸もある。 ついでに、稽古場まである。 この屋敷の持ち主の名は近藤 勇。 そしてここが、かの有名な天然理心流の現在の本部なのた。本部と言っても、幹部や食客が屋敷に居付いてしまったためにそう呼ばれるようになっただけ。 何も大げさなことはしていない。 主・近藤勇は、自分の部屋で溜め息をついていた。 目の前には、ピザが置いてある。大変美味そうなのだが、食べる気がしない。 「文句はいけないが……味噌汁、白米、煮物が食いたくなるな」 憮然とした表情で近藤の気持ちを代弁したのは、土方歳三。 彼も、この近藤屋敷に転がり込んでいる幹部の一人だ。 「トシ、そういえば神谷君が来るのは来週だったかな?」 「あ?」 「親戚の所からここへ移ってくると、総司が言っていたじゃないか」 「忘れていた!」 がたん、と立ち上がった彼は、走っていった。 「皆、近藤さんの部屋へ集まってくれ」 「来週から神谷がここで暮らす事になった」 夕食後、思い思いにくつろいでいた、井上・原田・永倉・藤堂・斎藤・山南らは、目を丸くした。 「総司、神谷は親戚の家に居るんだろ? なんでだ?」 左之助がすぐに聞く。 「実は神谷さん、お世話になってる親戚の方が海外転勤になって、独り日本に残されるらしいんです」 総司が気の毒なくらいしょんぼりと言う。 「見かねたこいつが、この屋敷へ引き取る事を提案したら、すぐに乗ってきたらしい」 土方が複雑そうな顔で言う。 「若い男の元へ預けたりして、心配じゃないのかな……」 平助がちょっぴり遠い目をして言う。 「衣食住に不自由しなけりゃ、なんでも良いってことだな……。たまにいるぜ、そういう親」 相変わらずの不精ヒゲを撫でながら、新八が呟く。 「ま、独りで気ぃ張って暮らすより、愛する総司と一緒の方がいいに決まってらぁ」 「ちょ、ちょっと、原田さんっ!」 左之助の言葉に、総司が真っ赤になる。 「いずれ一緒になるんだろう、少々早くなっただけのこと。気にするな、沖田さん」 「斎藤さんまで!」 無表情のまま斎藤が完結させ、一同大笑いをした。 ひとしきり笑った後、近藤が言った。 「しかし、いくら愛し合う男女とは言え、同室はまずいかな?」 「まずい」 土方がきっぱり言い放った。 「間違いがあってはかなわん」 「土方さんっ、間違いなんて起こりませんよっ!」 「総司が我慢強いのは知ってるが、神谷君は可愛いから心配だな……」 総司が精一杯喚くが、誰も聞いちゃいない。それぞれ勝手に想像して楽しんでいるようだ。 「総司の子は我々の孫同様」 「源さん! 流石に子どもはまだ早いですよう!」 「そうだな。今子どもが出来たら、神谷君が、子どもを二人育てることになる」 「近藤先生、どう言う意味ですか、それ……」 「ぷっ……総司もまだまだ、子どもだね!」 「ひどい、藤堂さん……」 ぷくっ、と総司が膨れたのを見て再び一同大笑いをした。
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