近藤屋敷・4

 「わぁ、綺麗なお部屋!」
「このあたり、全部好きに使っていいですから」
 セイに割り当てられたのは、八畳の和室と、十畳の洋間、それにバス・トイレ、納戸だ。
 セイはびっくりした。同時に、自分の為だけに改装してくれた近藤に対して、感謝と感動の気持ちが溢れ、セイは思わず涙ぐんだ。
「相変わらず、泣き虫さん」
「だってぇ……」
「近藤先生も、こんなに喜んでもらえて、嬉いと思いますよ」
 総司が、ぽんぽん、とセイの頭を撫でた。
「私達は、渡り廊下を渡った先の棟に居ますから。はい、これが屋敷の見取り図です」
 ここへはじめて来た時から広いとは思っていたが、改めてみるとなんと広いこと。
「広い!」
「ええ、慣れるまで大変ですけど、頑張ってくださいね」 
 
 それからまもなく、セイより一足先にここの住人になっている五郎がセイの部屋のドアをノックした。
「富永、居間に食事の準備整ったって!」 
「はーい」
 総司がさっと立ちあがり、セイもつられて立ちあがった。
「行きましょう! みんな、あなたに会うのを楽しみにしていますよ」

 向かった先は、広い畳敷きの居間だ。大きな卓がどーんと置いてあり、すでに皆は食事をはじめている。
 見事に男だらけ。セイは思わず総司のシャツを掴んでしまった。
「大丈夫です、あなたには指一本触れさせませんから!」

 セイは、総司に促されて、空いていた場所に腰を下ろし、箸を取り上げた。
 ふと、視線を感じて顔をあげると、複数の顔がこちらを見ている。
(うわぁ……見られてるっ……)
 向かい合って右から、タレ目、好青年、不精髭、普通のおじさん、中村五郎だ。
「左之、みっともねぇ、涎拭け!」
 間抜け面を曝していたタレ目に向かって、不精髭が布巾を投げつけた。
「ぶわっ、ぱっつぁん、酷ぇ!」
「今のは原田さんが悪いよ。神谷可愛い〜食いたい〜、って顔、してるんだから」
 しれっとそんなことを言ってけた、青年。セイの頭の中で情報がひとつ一致した。
「あ! 藤堂先生! 八番隊組長藤堂平助先生!」
「思い出してくれたんだ! 嬉しいよ〜!」
 にこにこと平助が笑い、セイも笑顔になり、固い握手を交わす。
「よろしくおねがいします!」
「こちらこそ!」
「総司、神谷と会えてよかったね〜」
「ええ、お陰様で!」
「あれ、藤堂先生、その額の傷跡はひょっとして……」
「うん。池田屋の時のだよ。なんど転生しても、必ずアザとして浮かんで来るんだよ」
「セイの手貫緒の跡も、そうですよね?」
「はい、そうです。不思議ですよね〜」
 平助とセイと総司、三人がわいわい仲良く話しているのを見て、タレ目と不精髭が揃って
「俺達は?」
 と言った。
 セイはうーん、と首を傾げて、
「原田先生と永倉先生、なんでしょうけれど……」
 なんとも、曖昧な返事をした。
「神谷、早く思い出してくれよ〜……」
「そうだそうだ!」
 総司がさっと、セイの肩に腕を回した。
「セイ、このお二人のことは思い出さなくていいですからね!」
 耳元でこれ見よがしに囁かれて、セイは思いっきり笑った。
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