近藤屋敷・6


 「総司、何をしているんだい?」
「あ、山南さん」
 土方の部屋のドアに蜘蛛の如く張りついている総司を見咎めたのは、帰宅したばかりの山南だった。
「いえね、この中に土方さんとセイが居るんです」
「ああ、うん。それは知っているよ。土方くんが昼間、神谷君が着いた、とメールをくれた」
「違うんです、セイが土方さんに口説き落とされてるに違いないんです!」
 山南の目が、点、となった。
「総司?」
「セイ……土方さんに抱きついたんです!土方さんも、嬉しそうに抱きとめたんです! きっと私、捨てられちゃうんですよ!」
 盗み聞きしていたことを忘れて、盛大に総司が喚いた。
 と、中から土方が叫んだ。
「総司! うるせえぞ! 野暮なことしてねぇで、とっとと失せやがれ!」
「や、野暮ってなんですか!」
 負けじと総司も怒鳴り返す。
「密室の男女の会話を盗み聞きするたぁ、野暮以外の何者でもねぇ!」
「なっ!」
 同時に、中からかちり、と鍵の音がした。
「か、鍵! 鍵をかけましたね! 土方さん! セイを返してくださいよう!」
(おや、今の音は……鍵を空回しした音では?) 
 山南は総司に気がつかれないよう、必死に笑いを堪えていた。
(土方くん、からかい過ぎだよ……)

 しょぼくれた総司と一緒に部屋まで戻ってきたセイはぎょっとした。
「そ、総司さん! 私の部屋の前に人だかりが!」
「ええ?」
 総司はあわててセイの指差す先を見た。総司の目が僅かに細くなった。
「みなさん、何やってるんです?」
 総司の声に、その集団がぎくっ、と揺れた。
 そしておそるおそる、タレ目が口を開いた。
「いや〜、神谷の風呂……いやいや、湯上がりの神谷が見たいなぁ、と思って……」
 あはは、あはは、あは、と乾いた笑いが広がる。
「セイは、自分の部屋にお風呂がついてるんですよ?」
「いや、だから、忍びこもうかと……」
 セイの顔が青くなって、ぴし、っと固まってしまった。
「……総司さん、私がお風呂はいる間、部屋に居てください」
「ええ?」
「覗き魔がきたら、追い出してください! お願いしますっ!」
 据わった目で見つめられて、総司は承知するしかなかった。
「ちぇっ。総司が見張りじゃ、倒して覗くわけにもいかねーな」
「総司、覗いちゃ駄目だよ〜」
「沖田先生、神谷を襲っちゃ駄目ですよ」
「神谷、またなー」
 てんで勝手な事を喚き、セイの怒りを散々あおってから集団は解散していった。
(はぁ、私、大変な所に来ちゃったんじゃ……)
 ようやく、セイはそのことに気がついて愕然とした。