春、その青年は桜の木を毎日見に来ていた。 夏、その青年は京都・大阪へ行った。 秋、その青年は函館へ行った。 冬、その青年はまた桜の木を見ていた。 めぐりあい 1 「はぁ〜。ここに来るのは1週間ぶりです」 総司は桜の木の下に座って呟いた。 「神谷さん、あなたはどこに居るんですか? いいかげん、出てきてくださいよ」 道行く人が不審そうに総司をみるけれど、彼は気にしない。 「神谷さん、近藤先生の道場、改築が終わりましたよ」 木に背中を預けて座り、木に語り掛ける。 「一週間でいろいろありました。原田さんとおまささん、無事に逢えましたよ。あの二人、やっぱりせっかちで、出遭って一週間たらずで入籍したそうです」 セイのクスクスという笑い声が聞こえたような気がして、総司は話しを続ける。 「山南さんとお里さんも、一緒に住んでるんですよ。神谷さんが見つかるまではお式は挙げないって、あなたの事を待っていますよ」 藤堂もおゆうちゃんを待っている。 総司と同じように、大学が暇になると彼もあちこち探して歩いている。 ふと、総司の携帯がぴろろろん、とメールの着信を告げた。 「おや、土方さんです。タイトルが馬鹿総司……酷いですね。本文が……さっさと帰ってきやがれ……これだけですか。まだ帰れませんと送っておきましょうか」 素早い手つきでメールを返す。 良く見るとストラップは新選組の「誠の旗」を模したものだ。 裏返すと『一番隊組長沖田総司』と書いてある。 記憶を持って生まれ、再会できた者に、近藤が記念として渡しているらしい。 「神谷さん、土方さんは高校の体育教師なんですよ。今、私は近藤先生の家に居候です。近藤先生と土方さんは高校生の時、剣道の全国大会で逢ったんですって」 その頃総司は、近所の小学校で開かれていた剣道教室へ通っていた。 藤堂と斎藤の名前は既に聞いて知っていたが、逢った事はなかった。 その後高校生の時、全国大会で彼らと剣を交えた瞬間、総司は電流が走った様に全てを思い出した。 彼らもまた、同様だったらしく、藤堂は驚きのあまり泣き出してしまったし、斎藤も竹刀を取り落としてしまった。 「それでですね、土方さんの職場に、古文教師が来たんですって。なんとそれが伊東先生だそうですよ!」 今度はセイがぶぷ〜っと笑った気がした。 目を閉じれば、今にも、『沖田先生!』と木陰から顔を出しそうだ。 再び、総司の携帯がなった。 「もしもし、土方さん? はいはい、すぐ戻ります。んもう、意地悪なんだから!」 総司は携帯をジーパンのポケットにしまうと、ぽん、と弾みをつけて立ち上がった。 一つに束ねられた黒い髪が、ふわりと動く。昔の総髪そのままだ。 「神谷さん、はやく逢いたいんです……」 総司は、桜の木を見上げて祈る様に呟いた。 |