春、その青年は桜の木を毎日見に来ていた。
 夏、その青年は京都・大阪へ行った。
 秋、その青年は函館へ行った。
 冬、その青年はまた桜の木を見ていた。

めぐりあい 2

 それから暫くして、総司はまた桜の木の下に座っていた。
今日は一枚の写真を持っている。
大学の剣道部に所属する総司は、全国大会に出た。
昔と変わらず突きを得意とする総司は、向かうところ敵なしだ。
「神谷さん、優勝してきましたよ。見てください、写真撮ったんですよ。高校の剣道部のコーチが土方さんで、大学のコーチが近藤先生なんですよ」
その写真には、応援に駆けつけた山南や井上、一般の部に出場した原田・永倉、偶然にも彼らと対戦する事になった、相田・山口もいた。
土方を追いかけて応援に駆けつけただけの伊東が何故かど真ん中にいるが気にしてはいけない。
「相田さんと山口さん、今お二人は会社員だそうですよ。神谷さんに会いたがっていましたよ」
 
 不思議な事に、同じ顔で、幕末の、あの頃の記憶を持って、出遭った。
町をあるいていると、昔自分が斬った相手が歩いていたりする。
彼らが記憶を持たずに転生している所を見れば、自分たちがどれほど特殊な存在かがわかる。
「神谷さん、原田さんと永倉さん、今、学校の先生やってるんですよ。しかも、黒新初等部なんですよ!」
黒新とは正式名称を黒谷新選学園という。総司たちがそろって何らかの形で所属している。初等部から大学院・大学付属病院まである大規模な学園で、理事長は松平、というらしい。
イチ学生である総司が会うことはまずないが、恐らく、会津公だろう。

 「これだけの人に逢えてるのに、どうしてあなたに逢えないんでしょうね……」
逢う人逢う人にセイの存在を聞いたが、誰も知らなかった。
「監察の山崎さんが大阪で私立探偵となっている、と情報が入って、土方さんと山南さんが逢いに行きました。私立探偵なら、あなたが探せるでしょうか」
ぴろろろろろん、と総司の携帯がメール受信を告げた。
「山南さんです……読みますね。総司、神谷君の情報はなかった。でも、山崎君が探してくれるそうだよ。気をしっかり持って、待ちなさい」
総司は素早く返事を打った。私は大丈夫です、山崎さんは優秀ですから期待出来ますね、と。
(神谷さん、あなたに逢えないのは、あなたを愛していると伝えなかった私への罰でしょうか……もう、逢えないんでしょうか……)
この頃の総司、思考がどうも暗くなりがちだ。

 「沖田さん、ここに居たか」
「総司、帰ろう!」
しょんぼりとしていた総司に、ふいに声がかかった。
「斎藤さん、藤堂さん!」
そう、彼らもまた学生。三人とも日本史専攻だ。
「沖田さん、講義をサボっただろう、ノートをとっておいた」
斎藤がレポート用紙を手渡す。
「俺は総司のぶんの出席カード、書いて出しておいたよ」
藤堂がにっこり爽やかに笑う。
「わぁ! ありがとうございます!」
「今日の食事当番は俺たち三人だ。急がないと、原田さんに殺される」
「相変わらず大食いなんだもの、困っちゃいますね」
「俺、カレーがいいな!」
「ええ〜、私はカツ丼が食べたいですよぅ」
「……カツカレーではどうだ?」
「やった〜(×2)」
いつもの総司に戻ったのを確認し、斎藤と藤堂はそっと目配せしあった。
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