春、その青年は桜の木を毎日見に来ていた。
 夏、その青年は京都・大阪へ行った。
 秋、その青年は函館へ行った。
 冬、その青年はまた桜の木を見ていた。

めぐりあい 5

 中村五郎が密かにセイを道場へ連れてきた数日後。
幹部たちは、ようやく近藤屋敷へ戻ってきた。
「あ〜あ、留守を預けられる女手があればなぁ……」
買い出し当番の原田・永倉がスーパー・『源-GEN-』で大量の食材を買い込みながらぼやく。
「そーいや、左之、総司はどこ行ったんだ?」
「気がついたら居なかった。斎藤が捜しに行った」
永倉がふぅ、と溜め息をつく。
「相変わらず、ふわふわしてるっつーかなんつーか……」
「ま、神谷が見つかれば、総司も落ちつくんじゃねぇ? 総司に神谷は必需品だろ」
珍しくまともな意見が返ってきて、永倉はまじまじと原田を見た。
「左之、お前、熱でもあるんじゃねーか?」

 因みに、二人の会話を聞いて思いっきり吹き出した者がある。
このスーパーのオーナーである、井上源三郎だ。
実は彼、経営している会社が大当たりし、日本有数の大富豪になっているのだ。
だから相当に忙しく、滅多に近藤屋敷には現れない。

 同じ頃、屋敷の空気の入れ換えのため、窓を開けてまわっているのは、山南と藤堂。
「総司、神谷を探しに行ったんだろうな……」
「そうだろうね……」
「神谷、転生してないのかな?」
いつになく、元気のない声で藤堂が呟く。
「どうしてそう思うんだい?」
「総司が真剣に探し始めて、もう季節が一巡り……。見つかる人はぱっと見つかるのに」
「そうだね。もしかしたら、皆とっくに神谷君に出会っているのかもしれない。でも、お互いにすれ違ってしまったりして、逢えていないのかもしれない」
「そうだと良いな……」
「大丈夫だよ、平助。総司が諦めないうちは、諦めちゃいけないよ」
山南は藤堂の肩をぽんぽん、と叩いた。

 それから程なく、賑やかに買い出し組が帰宅し、本日の食事係である土方が台所へ立った。
「今日の当番はトシか。美味い物が食えるな。何を作るんだ?」
「炒飯だ。ああ、近藤さん、暇なら卵を溶いてくれ」
「お?」
ボールと卵をどさっと渡されて、近藤はシャツの袖を器用に捲り上げ、巧みに卵を割り出した。と、次はものすごい勢いでかき混ぜはじめる。
偶然それを見て驚いた山南が土方の元へ駆け付けた。
「土方君、卵はあんなに激しくかき混ぜていいのかね?」
「あ?」
「泡だっている気がするんだが……」
山南に言われて、近藤の元へすっ飛んでいった土方が頓狂な声を上げた。
「なっ! やり過ぎだ、近藤さん!」
二言、三言、やりとりがあった後、土方の諦めたような声がした。
「近藤さん、あんたはあっちで座っててくれっ!」
「トシ、何か手伝いたいんだが……」
「じゃあ、えびを剥いてくれ」
「承知!」
山南は静かになったのを見極め、廻れ右をした。
その瞬間、土方の声がした。
「山南さん! すぐ来て近藤さんをそっちへ連れていってくれ!」
「酷いなぁ、トシ……」
「酷いのは近藤さん、あんただっ! えびが半分の大きさになってるじゃねーか!」
山南は、ぽりぽりと頬を掻く、近藤を連れて、台所を飛び出した。

 「沖田さん、一体どこへいったのだ?」
(神谷も、どこにいるんだ?)
斎藤はいつもの桜の木の下で、困惑していた。
どこを探しても、見つからない。
「清三郎〜っ、沖田さん!」
試しに大声で叫んでみるが、返事はない。
近くの大きな洋館から、シチューのような、匂いが漂ってくる。
(腹が減ったな……帰ろう)
斎藤が立ち去った、数秒後。
その洋館の2階、一番奥の窓が開き、一人の少女が顔を出した。
富永セイ、である。
彼女は誰かに呼ばれた気がして、慌てて窓から顔を出した。
「やっぱり、気のせいなのかな。昔の仲間が、清三郎を探してる、なんて……」