春、その青年は桜の木を毎日見に来ていた。
 夏、その青年は京都・大阪へ行った。
 秋、その青年は函館へ行った。
 冬、その青年はまた桜の木を見ていた。

めぐりあい 6

 その後、セイはふらふらと、桜の木の下へ座りこんでいた。
「誰ですか、私を呼ぶのは……」
『大事な人』が誰なのか、『呼ぶ人』が誰なのか、思い出せない。
近藤屋敷へ行ってからというもの、『呼ぶ声』が強く感じられるようになり、セイは困惑していた。
今日も昼休みに中村五郎に、
「富永、少しは思い出せたか?」
と聞かれた。
「新選組のことも、色々調べたんだけど……。神谷清三郎って名乗ってたこととか……ひどく断片的なことくらいしか……」
「先生方の顔とかは?」
セイはぶんぶん首を横に振った。思い出そうとしても、霧がかかった様に思い出せない。
あまり考えていると頭痛がしてくる有り様だ。
「……やっぱり、駄目なのか」
「うん」
「お前も、辛いよなぁ……」
(中村はちょっと寂しそうな、痛ましそうな、そんな表情をしたっけ……)
ぼんやりと、物思いに耽っていても仕方がない。
セイは勢い良く立つと家へ小走りに戻っていった。

 「やっぱり、俺じゃだめなんだな……」
中村五郎は自室のベッドで呟いた。
(俺じゃあれ以上の記憶はもう無理かな。沖田先生に会わせないと富永が苦しむばっかりだ……)
学校で、伊東先生に会わせようかとも思ったが、清三郎にいたく御執心だったことを思い出すと、どうもそういう気になれない。
隣の建物には、土方先生もいるが、五郎は鬼副長が苦手な為、道場以外で顔を会わせたくない。
原田先生や永倉先生に逢わせるのは、どうもセイの身が危険に曝されるような気がして、出来れば1番最後に逢わせたい人たちだ。
(藤堂先生と斎藤先生は大学に居るって言ってたけど、逢ったことねぇし……)
うんうん唸る五郎の頭に、名案が浮かんだ。
「そうだよ、富永を動かそうと思うから無理なんだ。沖田先生だけを、富永の家に連れていけばいいんだよ」
思い立ったら即行動。五郎は一気に近藤屋敷へと駆け付けた。

 「こんばんは、中村です。沖田先生いらっしゃいますか」