春、その青年は桜の木を毎日見に来ていた。 夏、その青年は京都・大阪へ行った。 秋、その青年は函館へ行った。 冬、その青年はまた桜の木を見ていた。 めぐりあい 9 セイは、ばたばたと家を飛び出した。右手首に浮かび上がった痣をしっかり押さえると、総司の声が聞こえた気がした。 『神谷さん……私はここですよ……』 (沖田先生! ああ、どうして私は、沖田先生を忘れてたんだろう!) 一度思い出せば、後は簡単だった。 「沖田先生、沖田先生!」 セイの足がぴたっととまった。 (そうだ、あの場所へ行って見よう) あの場所。総司と離れ離れになってしまった、あの場所へ。セイは一目散に駆け出した。 総司は、はっとした。とぼとぼと近藤屋敷の門をくぐろうとしていたのだが、セイの声が聞こえたのだ。 「神谷さん?」 総司は袂を引かれたような感じを覚え、ゆっくりと振りかえった。 (ああ、あの場所……ですか) 一人頷くと、素早く走り出した。脳裏に描くのは幕末の地図。 昔は川だったところが、今は埋め立てられて道になっている。同じく橋だった場所が、横断歩道になっている。次第にビル群が森に見え、アスファルトが土に感じられる。 (ありました……ここのコンビニ、昔はお団子やさんでした) 病に倒れたあの時、それでも体調の良い日には清三郎と共によくここへ来た。そして、総司が呆気なく清三郎を失ったのも、ここだ。 「大きくなりましたねぇ」 コンビニの裏に、大きな木がある。『回り逢ひ之樹 重要文化財』と書いたプラカードが幹に括られている。傍に石碑が建っており、この木の下で起こった幕末の悲恋が刻まれている。 (恋人の目の前で女が殺され、間もなくその男も病死、って私とセイの事です……) その話しに尾鰭背鰭がついて今では、この木に願掛けすると、来世も恋人同士になれるという言い伝えがあるらしい。 総司が木をぼーっと眺めていたら、ふいに声がした。 「……先生! 沖田先生ーっ!」 「神谷さん!」 駆けてくるのは、黒髪の小柄な少女。相変わらずの色白で、目が大きい。 「神谷さん、やっぱり泣いてる」 総司はしっかりとセイを抱きしめた。昔、抱きしめたいのを我慢したぶんを取り戻すかのように、抱きしめた。 セイの腕がぎゅっと総司の背中に回された。新選組にいた頃は絶対にしなかった仕草だ。 「神谷さん、探しましたよ」 「ごめんなさい」 「あなたときたら、傍にいなさいって言ったのに、私を置いて先に逝ってしまうんですもん。寂しかったんですよ」 「命令違反で、切腹ですね」 「それに、何度転生してもあなたは私に気が付いてくれませんでした……」 「ええ! すみません〜!」 「随分長く、勝手に傍を離れましたね」 くすくす、と笑うセイは昔のままで、ようやく総司はセイを離した。 セイの涙も今は止まっている。 「もう、二度と傍を離れることは許しません。覚悟してください」 「はい!」 |