近藤屋敷・2

 「なあパっつぁん、総司が勉強してるってさ。明日は雨か?」
 新八の部屋に押しかけてきた左之助が、明日の授業の準備をしながら言う。
「雨は困るなぁ。俺のクラス、明日は校庭でパーティーする予定なんだぜ」
「やきいもかぁ。俺は河原まで写生に連れていくつもりだぜ」
「しっかし、左之が小学校の先生だなんて、未だに信じられねぇな」 
「パっつぁんだって同じだぜ?」
 左之助はこれでも、学校屈指の人気者だ。
相変わらずの短絡的思考回路ゆえ粗相が多いが、そこは長い付き合い、さりげなく新八がフォローしていることを忘れてはいけない。 
 もちろん新八も餓鬼大将、ベテラン先生達が手を焼いていることに変わりはない。

 居間には、斎藤と平助に見張られながら、せっせと勉強する総司がいる。
「沖田さん、ここはhは要らない」
「総司、これは疑問文の時に使う定型文だから、崩しちゃだめだってば」
 そんな弟分を満足そうに近藤が眺めている。
「はい、お茶はいりました〜」
 明るい声が響き渡る。エプロンをかけた、女性が二人、台所からやってきた。
 手にはコーヒーとケーキ、クッキーが載せられたお盆を持っている。

 左之助の妻・おまさが、リビングの電話を取り上げ、元気良く内線電話をかける。
「永倉センセ? コーヒーはいりました!」
 受話器を置くか置かないかのうちに、ものすごい足音がして左之助が居間に到着。
「まさ〜! コーヒーどこだ?」
「もう少し静かにできんの?」

 続いて、山南の婚約者・お里がしっとりと内線電話をかける。
「山南はん、コーヒー入りました」
 二人とも、近々越してくるセイの部屋を片付ける為に、朝から奮闘しているのだ。
 
 山南と新八が居間についたとき、妻に叱られたらしき左之助が、部屋の隅に正座させられていた。その口元には、クッキーの粉がついている。
 
 「わぁ、美味しそうです」
 総司の目がキラキラ輝く。
「沖田さん、あんたはこれが終わってからだ!」
 きらーん、と光るは斎藤の眼。
「これを頑張ってからにしよう、ね!」
 慌てて総司にえんぴつを押し付ける、平助。
「総司、いい兄弟分をもったね」
 山南がやんわりと言い、近藤が朗らかに笑い、二人の女性も、艶やかに笑った。
「しかし、今時、えんぴつを使ってるのは小学生と総司くらいだよな〜」
 左之助が言う。
「小学生でも、俺のクラスは学級会でシャーペンを使っていい、って先月決まったぞ?」
 新八が言う。
「う、うるさいですよぅ!」
 総司がぷくーっと膨れて、居間は一層笑いに包まれた。
「あ〜あ、ここに源さんとか土方さんとかがいないのが勿体無いよね」
 平助が言い、みな一斉に頷く。
 土方は、何故か国語科教師の研修旅行に同行するよう求められ、引っ張っていかれた。
 井上は、私立探偵・山崎に依頼することがあるとかで、大阪へ行っている。
「沖田センセ、おセイちゃんの部屋、片付きました」
「お里さん、すみません」
「それから、神谷はんのお部屋、鍵つけときました」
「まさ、お前なんてことするんだ! 総司が夜這いにいけねーじゃねぇか!」 
 大真面目な顔で喚く夫に、妻がぽかりと拳骨を落とした。
「沖田センセ以外が夜這いに行ったらどないするの!」
 俺達そんなことしないよ〜、と抗議の声が轟々と上がったがそれはことごとく無視された。
「原田さん、神谷の部屋に鍵をつけることを提案したのは沖田さんだ」
 総司の解いた問題の答え合わせをしながら、斎藤が呟いた。
「女の子の部屋だからね、鍵くらいないと……」
 山南がしみじみと呟き、平助が突如、あ、と言った。
「お風呂やトイレ、どうするの? 別がいいんじゃない?」
 近藤が、がたん、と立ち上がった。
「急いで改築!」