近藤屋敷・3

 翌日、源さん贔屓の不動産会社『せりざわ』の社長が部下を引き連れて改築にやってきた。
 芹沢社長は日の丸のついた派手な扇を振り回して部下を鼓舞し、驚くべきスピードでセイが暮らすことになる屋敷の一角を改築してのけた。
「近藤先生、あの扇を振り回してる芹沢社長って、あの芹沢さんですよね?」
 こそこそ、と総司が聞く。
「ああ、間違いないだろうね。彼の右にいる人が『新見』、というらしい」
「やっぱり……。でも、記憶はないんでしょうね」
「ないだろうね」
 部下の一人が社長に扇で打たれたのを見て、近藤と総司は同時に首を竦めた。
  
 兎にも角にも、セイを迎える準備は整った。
 あとは、来週末に本人と荷物が届くのを待つだけだ。
 総司たちが暮らしているのは、旗本屋敷の『表』に当たる場所で、昔「使者の間」や「次の間」などといっていた部屋を個室として使っている。
 そして、離れになっている旧茶室には左之助&おまさ夫妻が、同じく離れになっている旧書斎には、山南&お里が、それぞれ住んでいる。
 で、セイが暮らすことになるのは、『奥』にあたる場所だ。
 最も、旗本屋敷がそっくりそのまま残っているわけでもなく、そう広くもないし、表と奥とがきっちり分かれているわけでもないのだが……。
 
 最初は、総司の部屋の隣があいているので、そこにセイを、という話しもあった。
 が、神谷はまだ義務教育中、教育上よろしくない、と土方が言い、その話しはあっさり消えた。
  無論、
 「え、神谷って……まだ中学生なの!?」
 一同、きょとん、としたのは言うまでもない。

 その日の夜、セイは一人で荷造りをしていた。
―コツン
 窓に、何かがぶつかる音がして、セイはそっとカーテンを開けた。
「こんばんは」
 なんとテラスに立つのは、沖田総司。
「沖田先生!」
 セイは窓をあけて飛び出すと、総司に抱きついた。
「配水管と屋根を伝って来てしまいました……」
「嬉しい。入ってください」
「いえ、帰ります。あなたの顔が見たかっただけですから」
 くるり、と回れ右をして屋根に飛び移ろうとする総司を、セイは背後から抱きとめた。
「寂しいんです」
 総司ははっとした。一階も、二階も、この部屋以外、電気が消えている。
「あなた、一人ですか?」
「はい。一週間前に、おじさんとおばさんは、旅立ちました」
「どうして、早く連絡しないんですか!」
「ごめんなさい」

 「というわけで、神谷さんを今からそっちへ連れていきます」
―今からか? ……総司がそっちへ泊まれ
「え?」
―土方さんには黙っとくから心配するな。神谷によろしく!
「ちょ、ちょっと永倉さん!……ああ、切れちゃいました」
「相変わらずなんですねぇ、永倉先生」
 総司がそうなんですよ、と、溜め息をついて、床に座った。
「うふふ、お屋敷へ引っ越すのが楽しみです」
(私はなんだか、心配です……)
 総司の胸の内にはまったく気がつかず、セイは総司に飛びついた。